イソプロパノールはアルコールの一つで、プロパノールと類似した構造を持ちます。エタノールと同じく殺菌作用があり、人に対し比較的安全であることから50%イソプロパノール溶液などが消毒液として販売されています。殺菌効果はエタノールとほぼ同じと考えられている一方、酒税がかからない分価格が安いです。

エタノールとの違いは、

  • 毒性がエタノールより強い点
  • 体内に入ったときの代謝物が異なる点
  • 脱脂作用が強い点

などがあります。

上記の様な小さな違いは、殺菌という大きな目的にはさほど影響する様な事ではなく、特に気にする事はないと考えています(私は2つ並んでいたらエタノールを選んじゃいますけど)。

ここではさらに、上の違いを含め、詳しくイソプロパノールについて解説していきたいと思います。

Contents

イソプロパノールとは?

化学物質の名前はルールに従い付けられ、名前を見ればある程度どんなものなのかイメージする事ができます。名前には、基本的に炭素の化合物の性質を決める部位が含まれています。例えば、エタノールという名前は、エタン(炭素Cが2つ)とアルコールの性質を持っていることを意味する語尾の「ォール(英:-ol)」からできています。つまり、炭素を2つ持ったアルコールという事がわかります。

豆知識

化合物の性質を決める部位に官能基というものがあります。例えば、アルコールに分類されるものは「ヒドロキシ基(-OH)」と呼ばれる官能基がついています。他にも、有機酸に分類されるものは「カルボキシ基(-COOH)」、アミンに分類されるものは「アミノ基(-NH2)」が付いています。

イソプロパノール エタノール

では、イソとは何なのでしょう。イソというのは「直鎖でない」ことを意味します。簡単に言えば、「分岐している、枝分かれしている」という事です。

つまりイソプロパノールは、枝分かれがあるプロパノールということになります。上の構造を示した画像を見てみると、1-プロパノール は直線的ですが、イソプロパノールは枝分かれしているのは分かると思います(OHを頭とすると、CH3が足の様に枝分かれしている)。

また、2番目の炭素にOHが付いていることから、2−プロパノール(プロパン−2−オール)とも呼びます。あまり使われませんが、エタノールをエチルアルコールとも呼ぶように、イソプロピルアルコールと呼ぶこともできます。英語名Isopropyl alcoholを略してIPAとも記載されます。

名前は違いますが、全て同じ物質です。


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イソプロパノールとエタノールとの違いは?

殺菌効果はイソプロパノールの方が弱い?

エタノールとの差はほとんどないと言われています。エタノールで殺菌できるものはイソプロパノールでも殺菌できます。

エンベロープを持たないウイルス(例えばノロウイルス、アデノウイルスなど)には、エタノールの方がはるかに有効と言われています。しかし、エンベロープを持たないウイルスに対して、エタノールはあまり有効でないとされているため、この違いに意味があるかどうかは微妙です。手洗いで物理的に落とすことも大事ですね。

面白いことに最近では、リン酸が添加された酸性エタノール消毒液がにエンベロープを持たないウイルスにも有効である事が分かっています。より万能な除菌効果をもとめるならこのような消毒液がベストチョイスかもしれません。

代表的な製品の一例として、手ピカジェルプラスやラビショットがあります。裏の成分表を見て、「リン酸」が添加されていれば、酸性エタノール消毒液製品の可能性が高いですが、詳しくは個々のホームページ等で確認するのがおすすめです。

イソプロパノールの体内での動き

イソプロパノール エタノール

エタノールが入ると、代謝を受け酸化されアセトアルデヒドになります。二日酔いの原因ですね。アセトアルデヒドはさらに酸化され酢酸になります。酢酸は糖や脂肪同様にエネルギー源として使われます。

一方、イソプロパノールは代謝を受け酸化されるとアセトンになります。アセトンはマニュキアを落とすのに用いる除光液の成分です。また、糖質制限やケトジェニックダイエットをすると多く生成されるケトン体の一種でもあります。アセトンは呼吸により肺から排泄されます。

この様に、体で作られる成分に代謝されることが比較的安全に用いる事ができる理由の1つですね。



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イソプロパノールは危険?毒性や副作用は?

イソプロパノールの毒性はエタノールの2倍強いと言われています。2倍と言われると恐っとなりますが、普通に飲めるエタノールより2倍しか危険ではないとも考えられます。少なくとも、舐めたら死ぬ様な物ではありません。

イソプロパノールの致死量は70%溶液で120mL〜とされています。イソプロパノール換算で80mLほどでしょうか。これはヒトで実験したわけではないですので推定値になります。

そしてあくまで致死量ですので、体に何かしらの害がある量はもっと少なく、かつ人によってその量は異なることは注意が必要です。

主な副作用は、頭痛、嘔吐などです。ここでいう頭痛嘔気は二日酔いとはまた異なり、有機溶剤(シンナーなど)を吸引したときに近い症状と考えられます。これはイソプロパノールだからというわけではなくエタノールでも起こります。

これらの症状は手指の消毒程度で現れるとは考えにくいです。しかし、換気の悪い環境で、床など部屋中を消毒するなど密閉空間で大量に用いた場合現れる可能性があります。また、マスクにスプレーをかけて直ぐに乾燥させないまま装着した場合、呼気から効率的に吸収され症状が起こる可能性もあります(そんなことしたらむせると思いますが)。

稀にアルコールでアレルギーが起こる人がいます。エタノールより頻度は低いと言われていますしが、一応注意が必要です。塗ったところが数時間後、真っ赤になっていたりしたら注意です。また、お酒に強いかを調べるパッチテストがありますが、これはアレルギーとは関係ありません。アレルギーは免疫細胞が関与している一方、パッチテストはアルコール分解酵素が関与します。

独り言

高熱の女児の熱を下げる目的で、母親がイソプロパノールを浸し込ませたタオルを女児の腰部に4時間にわたりまいて使用したところ、昏睡が生じた。

https://www.kenei-pharm.com/medical/countermeasure/toxicity/02.php

衝撃的ですね。かなり知的といいますか。液体が揮発すると通常熱を奪います。イソプロパノールはエタノール同様に水より揮発しやすいため、効率的に熱を下げる事ができます。かなりせっかちさんですね。

揮発したアルコールが鼻や口から体内に入る可能性と微量ですが皮膚からも吸収される可能性もあります。幼児では皮膚のバリア能が成人より低く、より吸収されやすい可能性があり注意が必要です。全身を拭くなどしない限り大丈夫かと思います。


脱脂作用が強いとは?油っぽいってどういう事?

イソプロパノール

化学物質は「油っぽいモノ」と「水っぽいモノ」に分ける事ができます。さらに、油っぽいモノは油っぽいモノに溶けやすく、水っぽいモノは水っぽいモノに溶けやすいといった傾向があります。水っぽさ油っぽさを決める要素は多くありますが、一例として、炭素Cの数が多くなれば油っぽく、ヒドロキシ基OHの数が多くなれば水っぽくなるという傾向があります。

エタノールやプロパノールはどっちなのかというと、かなり水っぽいが、油っぽくもあるという面白い性質があります。この程よい油っぽさが、殺菌作用にも重要なポイントとなっています。

イソプロパノールとエタノールを比べると、イソプロパノールはエタノールより炭素の数が多いため、より油っぽいということになります。このため、手の油脂が溶け取り除かれやすいため、手が荒れやすいというデメリットに繋がります。

当然、エタノールも同様に手の油脂をとってしまうため手が荒れないわけではないです。(ちなみに私は違いを感じたことはありません。)頻繁に使う場合手荒れ防止成分入りのものを用いるのがおすすめです。


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【まとめ】

イソプロパノールはエタノールと同じく除菌に用いられるアルコール。酒税がかからない分安い。エタノールと殺菌効果にほとんど差はないが、エンベロープを持たないウイルスに対してはエタノールに劣る。中枢毒性はエタノールの2倍強いとされている。エタノールに比べ代謝が緩やかな点や脂性が高い点が原因かもしれない。副作用に頭痛や嘔吐などあるが、誤飲等しなければ、問題になることではない。


【参考】

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